本当にあった怖い話:

 

それは初夏の、とても寝苦しい夜だった。

サタケは掛布団をはねのけ、少しでも楽な姿勢を探してみたが

汗ばんだシャツが気持ち悪く、とても眠れそうになかった。

 

しかし、どうしても眠らなくてはならぬ。

翌日の出漁時間も早いのだ。

少しでも早く寝なければ仕事に障る。

 

眠れなくて焦り始める自分の胸中とは裏腹に

時間だけが無情に過ぎ去っていく状況。

 

心を落ち着かせねばならぬ。

 

とある文豪の作品にもあった気がするけれど、

右手を自分の胸の上に起き、心臓の鼓動にだけ集中してみる。

 

心臓の音が気になって全然寝れねえ。

 

しかもこんな時に限って将来やりたい事だとか、ビジネスプランだとか、

今、この瞬間に考える必要のない事が

次から次に瞼の裏に映っては消えていく。

 

くそっ。

少しでも早く寝ねなければ。

無心になって、自分の呼吸の音だけを聞くのだ。

 

そんな時だった。

 

 

どちゃっ

 

 

台所の方から妙な音が聞こえてきた。

 

何かが落ちた音だろうか。

硬そうでもあり、柔らかそうでもあるような音だ。

 

水を含んだスポンジ?

でも食器を洗ったスポンジはシンクの上側に置いたはず。

落ちる高さもそんなにない。

よしんば落ちたとしてもそんなに大きな音が出るはずがない。

では一体何の音だ?

 

・・・いや、今はそんな事を考えている場合ではない。

 

寝ることに集中するのだ。

心を無にして寝ることに集中するのだ。

 

・・・

 

しばらくしてやっと眠れそうになってきた。

意識を手放せそうで手放せない、まどろみの中にいる。

 

ふと、左腕が何かにくすぐられたような感触がした。

右手で払ってみる。

 

そしてソレを右手で掴んだ瞬間―

 

いくつものフシに分かれたつるつるとした感触、

ワサワサと蠢くヒゲ的な何か―

 

まどろみの中にあった意識が瞬時に覚醒する。

 

 

 

 

 

ムカデだッ!!

 

 

 

 

 

サッとヤツを掴んだ右手を壁の方に払う。

 

どちゃっ

 

さっきの謎の音だ!

ヤツが侵入してきた時の音だったんだ!

 

文字通り飛び起き、部屋の電気を点け、敵の姿を確認する。

 

デカい。

しかし腕を這われた上、

手で掴んで噛まれなかったのは奇跡だな!

つーか、あいつの甲羅、つるつるすべすべしてて意外と気持ちいいな。

 

硬い甲羅に覆われているだけある。

壁に叩き付けただけでは大したダメージも与えられていなかったようだ。

すぐにウネウネと動き始める。キモい。

 

急げ!

殺虫剤― はどこに置いてたっけ?

ゴキジェットしか持っていないが、きっと効くはずだ!

ヤツを見失う前に決着をつけるのだッ!

 

 

っと。

まあ、無事に処理できたんだけれど。

(その後、アドレナリンのせいか意識が覚醒しきって一睡もできなかったので

無事とは言わないのかもしれない・・・)

 

そんな事があってからというもの

田舎暮らし=虫との戦いという事を改めて認識する事ができた。

 

そして―

サタケはある結論に辿り着く。

 

 

以前はガス缶、バーナー(ストーブ)、その他アウトドア系調理器具を

入れていた

このちょいとミリタリーライクなケース。

 

 

今は全然違うものが入っている。

 

左から

 

ハチ用殺虫剤 ・・・ 撃墜数×1(作りかけの巣ごと)

ムカデ用殺虫剤 ・・・ 撃墜数×1

ムカデ用殺虫剤(強) ・・・ 撃墜数×1

ゴキブリ用殺虫剤 ・・・ 撃墜数×2(内1はムカデ)

ムカデ多いな。

 

結論とはそう。

殺虫装備の拡充とアクセシビリティの強化である。

 

家にいる間はあらゆる毒虫の奇襲に即応できるよう、

この殺虫スプレー4連コンボを常に自分のそばに置く事にした。

(常に、とは言ってもさすがにリビングと寝室(和室)だけだけど。)

 

田舎暮らしを始めて半年―

 

一番必要なものは

協調性だとか近所付き合いだとかそういったものだと思っていたけれど・・・

 

殺虫装備と常在戦場の心構え。

 

このふたつの方が大事だと強く思いましたんで、一応報告します。