「じゃあよ?お前は山小屋に一泊するとして・・・

翌朝雨が降ってたとしたら山小屋にもう一泊するんか?雨が続いたら二泊三泊と続けるんか?」

 

どこで聞いた言葉だったかな。

もしかすると、他の登山者が口にしていたのを横で小耳にはさんだだけかもしれない。

 

自分は・・・ もう1年くらいできてないから

趣味というにはおこがましいので過去形で書くが、登山を趣味にしていた。

 

始めた当初は晴れの日限定の登山者、という感じだった。

万が一、登山中に雨に降られた場合に備え

雨具は一応揃えてはいるけれど

雨の日は山に登らない。家で過ごす。

そんなスタイルをとっていた。

 

そこで冒頭の言葉。

 

雷に打たれたようだった。

 

自然環境は人間にその都合を合わせてはくれない。

 

環境に対応するためのギアを揃えたはずが、

メンテナンスが面倒だとか、そんなつまらない理由を自分の中でつけて

折角の休日を、登山するチャンスを不意にしていたわけだ。

 

実際にやってみると・・

雨の日の登山は雨の日の登山で乙だった。

 

精神を幽玄に誘うような、霧で煙る景色はどこか瞑想的で。

木々が奏でる静かな雨音は日々の業務に追われて荒んだ心を落ち着かせてくれて。

露に濡れた岩を覆う苔は芳醇な土の匂いと供に煌めいて。

 

うん。

 

ちょっと詩的表現をひねり出してみたけれどそろそろ限界なのでやめる。

 

まあ、何が言いたいかと言うと・・・

 

冒頭の雨の日登山の精神で

「ちょっと風が吹いたくらいで休んでたら、

何時まで経っても一人前になんかなれねえよ?」

 

と大時化にも関わらず、勇気か無謀か海に飛び出したのが木曜日。

この日は自分を含めてたったの3人。

たったの3人しか底引き漁に出漁していなかった。

 

自分以外の2人は浮島の底引き漁師の2トップとも言える存在。

喰らいついていく精神で出漁したのだ。

 

まー 根性出して出漁しててよかったよね。

 

新聞にのったぜ

例の記事が中国新聞にのる日だったらしく、

浮島漁師のLINEグループでそれがシェアされたから。

新聞買わなくて済んだわい

 

出漁していて恰好がついたわい。はっはっは。

 

 

ん!?

 

 

あれ~?

 

趣旨が・・・?

 

浮島の赤貝が総理大臣賞を受賞したというのが前提の取材だったはずなのに!?

それメインの話になると思ってたのに!?

ブランド化に繋がると思ってセールストーク的なアピールもしたのに!?

 

俺ん話がメインになっとるじゃん!

 

カー!

浮島漁協に恩を売るはずが!!

恥ずか死するわ!こんなん!

 

とかなんとか要らん事考えながら

なんとか操業時間一杯までやりぬいて

帰港中に事件は起きた。

 

「過去最強級に波が太いな・・・!

このまま横波をくらい続けたら、冗談抜きに転覆するかもしれない。

まずは、波に逆らって上り、それから波を背に、追い波状態で帰ってくるか。

このまま横波をくらい続けるのは気持ちが悪いぞ。」

 

っとラット(ハンドル)を右に切った瞬間だった。

 

うおっふ!

急にその場で、荒波の中、旋回をし始める船!

デッキで転げまわる俺!

 

ヤヴァイ!

これ、逝ったな。

舵の何かがおかしい。

ラット(ハンドル)をいくら切っても、切りかえしても船が右に旋回し続けている。

 

舵そのものが船から外れて海に落ちたか?

いや、旋回を1方向に続けているという事は、舵が効いているということ。

舵はある。きっとある。

じゃあ、舵を動かすポンプが壊れたか?

ポンプから舵に力を伝導させるピストン部分が折れたか?

それとも別の何かか!

 

落ち着け。

落ち着け。

 

舵が残っているのなら、

手動で、舵棒っていうのを突っ込めば舵の向きは変えられる。

まずは本当にまだ舵があるのかを確認だ。

 

舵が無くなっているようであれば錨を打って、援けを呼ぶしかない。

 

いや、まてまて。

まずは連絡だ。

 

これこれこういう事情で今日の出荷は間に合いそうにない。とな。

 

溶接の前に心折れるわ!

あ。

 

異常個所、すぐ見つかった。

名前も知らねえ、舵の向きを動かす機械パーツと舵そのものを繋げる溶接部分がもげてやがる。

 

幸い、舵はどこにもいってないようだ。

良かった。

これなら、溶接部分さえ補強しなおせば、また働けるようになる。

万が一舵がどっかいってたら数万の出費+1週間近く休まなきゃいけないところだった。

 

なんにせよ、

はやく港に帰らないと。

大時化の中、いつまでも難破してられないぞ。

 

うーん?

 

どうやってつかうの・・・

 

うーん?

 

いやいや

棒舵ってどう使うんだよ!?

 

これじゃあ横軸に力が入らないから舵の向きなんて変更できないぞ!?

 

明らかに1パーツ足りてないだろ!

 

・・・

 

力(パワー)か?

 

足りてないのはパーツではなく、力(パワー)か?

 

うおおおおおおお!!

 

っと頭の血管が切れそうなくらいに力を込めてみるも・・・

 

無理ですね。

 

波が強すぎて、舵が回りはじめてもすぐに戻される。

 

なんか細い棒はないか・・・

軸に空いた横穴を使って

テコの原理で回すしかない。

 

なんか転がってた棒

 

手で舵を回しながら、リモコン(有線)で前進後進を操作し、

航行するのだ。

 

いくぞッッ!!

 

っというとこでファースト師匠と何かと佐竹の世話を焼いてくれる

よしさんが船で迎えに来てくれたのが木曜日。

いや、ヒーローか何かかな?

夕日を背にガチで後光が差してたぜ。

ありがとうございます。

 

曳航されて、無事に帰港できました。

 

それからというもの、船を応急処置してもらったり、

船を鉄工所に持っていったり、

鉄工所での作業が1日かかるという事で

金曜日はお休みすることになっちゃったり

この土曜日でバスに乗って鉄工所に行って島に船に乗って戻ったり。

 

いろいろ大変でした。

いや~ おとなしく休んでおけばよかったのかな~。

でも、いずれは壊れていたんだろうな。

遅かれ早かれ、だ。

 

 

ちなみに、棒舵の使い方・・・

 

棒舵はこうつかう

正解はこうだったみたい。やはり1パーツ足りていなかった。

ないと思いたいが、もし同じ事があっても次は大丈夫だ。

 

ふい~。