ふっははは!
赤貝である!
2番でこれ!
ものの1時間でこれ!
いけるぞいける!
自己記録更新どころか、20Kgを突破できるペースだぞォ!
しかも2番でヒラメが2枚、完全に追い風!
やはり黄金航路だった!
黄金航路は実在したッ!!
で・・・
11時。
操業開始から4時間後。
爪を上げるぜッ!
という時に事件は起きた。
爪巻き上げ機構を操作している時のガクンという感触。
巻き上げ途中だったのに、海の中に落ちていく爪。
ああ。
ついにきたのか。
この時が。
感覚的に分かった。
Vベルトによりエンジンの回転部分と連動して
作動するのが爪の巻き上げ機構なのだが、
それが、そのVベルトが切れたのだ。
今まで、プリー(滑車)からベルトが外れる事は何度かあった。
だが、明らかに感触が違った。
エンジンを止めて、機械場を覗く。
ああ、やはり。
切れるの早いよ。
まだ、実働時間1ヵ月もないぞ。
でも慌てる事なかれ。
こんな事もあろうかと
前もって鉄工所に頼んでベルトの予備を用意しておいてもらったのだ。
何も問題ない。
落ち着いて、ベルトを交換すれば、普通に操業再開できる。
・・・
何これ、めっちゃ交換し辛い。
舵のポンプと連動するベルトと
バッテリーに充電するダイナモ機構のベルトをかわさないと交換できないじゃん。
1時間コースかもしれん。
一番消耗して一番切れやすいベルトだろうに、なんでこんな・・・
ん!?
べ、ベルトのサイズが違げぇ・・・
やってくれたなああああ!
やってくれたなああああ鉄工所!
確認してなかった自分も自分だけどさ!
いやいやいや、どうしよう。
どうしよう。
これは慌てていい状況だろう。
間違いなく。
爪が錨の役割を果たしているワケだから、このままじゃあ帰れない。
どこにも行けない。
自分に残された手段は・・・
①切れたベルトをテープか何かで応急処置してダメもとで爪を上げようとしてみる。
②ロープでベルトの代用品を間に合わせで作り、ダメもとで爪を上げようとしてみる。
③爪を袋、ワイヤーごと海に一時的に投棄し、海上に浮きを浮かべておく。
そしてベルトを調達、交換してから爪を上げにくる。
うーん、③かな・・・
現実的に・・・
いや、まて、④だ!
そばでイワシ網の同僚が操業している。
船によって使用するベルトのサイズは違うが、
自分のと似たようなサイズの予備のベルトを持っていないだろうか。
っという事で
午前中に自分が獲ったヒラメ2枚と引き換えに
似たようなサイズのベルト(中古)を譲ってもらった。
タダでいいと言ってくれたんだけれど、
それは自分が納得できなかった。
あくまで似たようなサイズ、自分のより少し大きいので
爪を巻くことは巻くが、すぐ外れてしまう。
ベルトを直しつつ、騙し騙し・・・
おっしゃ!
あがってきたぞ!
もう、汗だく。
エンジンルームの外に出た瞬間、汗冷えがすごい。
いやいや、そうじゃない。
そこじゃない。
まだ、13:30だ。
かなり苦戦したが、操業終了時間の15:00まで、まだ1時間半もある。
騙し騙しでも、あと1番でも2番でもやって、できるだけ稼ごう。
例え自己記録は更新できなくても諦めるな自分。
1つでも多く赤貝を獲って、1円でも多く水揚げを上げるんだ。
あ・・・ げる・・・ ん・・・ だ・・・?
・・・
もおおおおおおお!
何これえええええ!
こんな時に限って極太極長ワイヤー!!
少しでも上げたいのは水揚げであって、こんなワイヤーじゃあないぞッ!
クソデカクソクサ流木ゥ!
・・・
もう、何これ。
もう何これぇ・・・
頭の中で「理性」を司る自分の人格みたいのが、
もう残像が残るくらいの速さで「早よせい!早よ次の番せえ!」と警鐘を鳴らしまくっているのに
足裏に根っこがはってしまったかのように、もう、まったく動ける気がしない。
・・・
・・・
撤収ッッッ!
後ろ髪を引かれる思いだが、撤収!
調子いい時に限ってこんなんなるなんて!
ついてないなあ。
ホントついてない。
運命の修正力的な何かを感じたそんな金曜日(昨日)。
あ。赤貝は8.3Kgでした。
以上。