視界を次々に通り過ぎていく離島群に目をやりつつ
「年末になってようやく木々も色づいてきた感じだな。
サタケはこんなにも凍えているというのに、今年は暖冬だったのだろうな。
あの離島の山にも登れるのだろうか。だとしたら装備は?」
とあれやこれやと思いふけっているとお師匠がサタケに一言。
「タクロー、お前エラくないか?(疲れてないか?)」
時化てなければ(海が荒れてなければ)週6日、1日12時間程度の労働時間。
もしかしたら疲れの色が木々と同じように顔に出ていたのかもしれない。
それを見てなのかそうでないのか。いずれにしても
慣れない環境に飛び込んできたサタケをお師匠が気遣ってくれたのだろう。
しかし、このサイトのせいで寝不足はあったとしても疲れてはいない。
心身のタフネスだけがサタケの自慢にして唯一の武器なのだ。
それに植物がそこに在るだけで光合成をするように
サタケも疲れるそばから目に入る美しい光景で自然回復していってる気がする。
「あと12時間だっていけます!(大嘘)」
と答えるサタケ。
「ほーか」
と微笑みながらお師匠。
「でも」
と続けるサタケ。
沈黙と目線で続きを促すお師匠。
「唯一、今、ストレスに感じている事があります。
いや、今というのには語弊がありました。
この仕事、生活、今ンとこ全部気に入っていますが、
たった、ひとつ、ひとつだけエラい事が
この漁師生活であります!」
「なんだいね、それは。」
「うんこです!
朝出ないと気が気じゃない時があります!」
そう、漁船にトイレは備わっていない。
すなわち大なり小なり催した時には
海に不法(?)投棄するか我慢するしかないのだ。
文脈から察して欲しいのだが、サタケは「大」を外でするつもりは絶対にない。
朝、出漁するまでに用を足せなければ、それは「死」を意味する。
少なくとも「死闘」を覚悟する。
すなわち、人類の、いや個人の尊厳を賭けた戦いだ。
「まだ恥じらいがあるんやね。」
お師匠は吹き出しながらサタケの言葉に対してそう答えたが、
サタケは「恥じらい」の心こそが
現代人を現代人たらしめる要素だと思っている。
その証拠にお師匠も出来る限り「大」を我慢しているのを知っている。
サタケが知ってる限りお師匠が致したのは
酒で腹の調子を崩した時の2回だけだ。
その時、サタケはお師匠から最大限離れ、船の舳先で
『タイタニック』のローズよろしく風になっていた。
まあ、なんだ。
明日も時間があればうんこの話を書きたいと思うのでひとつよろしく!